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残りの一時間は和真達に協力してもらい、難なく乗り切った。

四時間目終了のチャイムが鳴り、結果発表を併せた閉会式が体育館で行われる。

結論からいうと鬼として捕まったのは二年の由希先輩だけだった。

そして三年生方は春日先輩が捕まらなかったことに酷いブーイングの嵐を起こしていた。主に不良っぽい奴等や体格の良い男子生徒達が。

「何したらあんなに嫌われるんだ?」

かくいう俺も負けず劣らずな反応だったけど。

それから鬼の証である布を無くしたと言ったら副会長の幹久は和真のように微妙そうな顔をしてから、呆れたように溜め息を吐いた。

「前代未聞です」

「………」

しかしそれだけでお咎めは無かった。何か嫌みの一つでも言われるかと覚悟してたのでちょっと拍子抜けした。

「何ですかその顔は。僕に何かして欲しかったんですか?まぁ久弥がお望みなら多種多様のお仕置きを今から用意して…」

「いえっ!結構です!」

ゾゾッと背中に悪寒を感じて言葉を遮る。先程まで呆れを滲ませていた瞳が妖しげな色を浮かべていた。

「それは残念。では、見事逃げ切った二人には生徒会からご褒美を」

春日先輩と並んで壇上に上がらされればグサグサと敵意から好奇心、色んな感情を含んだ視線が突き刺さる。

先にマイクを持って壇上へと上がっていた生徒会会計真鍋 京成は幹久に頷き返して口を開く。

そういえば京成と相対するのは初めてか。呼び出されて生徒会室に行った時コイツだけは居なかった。

紅蓮の情報屋、真鍋 京成。どんな奴か詳しくは知らないが油断は出来ない。

「勝利者には生徒会から三ヶ月食堂無料利用券と生徒会役員の誰か一名を指名して共に食事を食べれる交遊券が与えられる」

「いらねぇ」

間髪入れず入った拒否に俺はついうっかり思ったことを口にしてしまったかと慌てて口元を押さえる。が、

「これは生徒会の決定であって先輩にも拒否権はない」

口にしたのは俺じゃなく隣にいた春日先輩だった。けれども俺も春日先輩には激しく同意したい。
生徒会役員と食事って別に嬉しくもなんともない。

「……あ。だったら同等の奴なら良いのか?」

ぽろりと溢した言葉に京成と春日先輩の目が俺に向く。

「その生徒会役員とっていう権利、掃除屋でも使えますか?」

「……大丈夫だ」

「それなら俺は藤峰先輩と」

「藤峰…風紀副委員長か。分かった。伝えておく」

藤峰先輩なら大丈夫だろうと思ってのことだ。俺が唯一常識人だと思う人。
頷いて了承した京成は続いて春日先輩を見る。

「めんどくせぇな。誰でもいいんだったら俺はコイツでいい」

そう言って春日先輩は何故か俺の肩を抱いた。

「は?」

「良いな、京成」

「了解した」

「ちょっ、待って下さい!おかしいでしょそれは」

すんなりと通った春日先輩の要望に口を挟むも翻ることはなく。壇上から下ろされた。

はぁ…と溜め息を吐いて前を行く広い背中を睨む。

「春日先輩。真鍋先輩と知り合いだったんですね」

しかも春日先輩が京成を押さえ込んでいたように見えた。

俺の言葉に春日先輩がちらりと背後を振り返る。

「アイツは俺が育てた」

そして世間話でもするようにさらりとそう言ってのけた。

「育てた?どういう…」

「そんなことより携帯の番号教えとけ」

飯食う時に呼ぶ、と俺の疑問をぶったぎって春日先輩は続けた。

「…良いですけど」

赤外線を使って連絡先を交換する。

「そういえば先輩の名前…」

「名前が何だ」

「登録するのに俺、先輩のフルネーム知らないんですけど」

「そんなことか。俺は春日 祥貴(ショウキ)だ」

祥貴という漢字が分からなかったので教えてもらい、春日先輩とは壇上を降りて直ぐの場所で別れた。
俺はその足でクラスの列へと戻り、その後解散となった。

今日は歓迎会のみで午後の授業はない。
時間的にも体育館から寮や校舎にある食堂へと人がバラけていく。
和真と孝太の間に挟まれ俺も人波と一緒に寮へと向かう。

解散の場に來希の姿はどこにも見当たらなかった。

「久弥…春日先輩と顔見知りだったのか?」

「顔見知りっていうか、今日逃げてる時に初めて会った。和真、春日先輩のこと知ってるのか?」

「まぁ有名人だしなぁ。あまり良い噂は気かねぇ。だから極力関わるなよ」

「……気を付ける」

既に関わってしまっている気がしなくもないが、これから気を付ければいいだろう。

そんなこんなで色々とあったが俺は何とか歓迎会の日を乗り越えた。



後には掃除屋の藤峰 誠士郎と、謎ばかりが増える春日 祥貴との一対一の食事会。志摩 遊士への借りが残された。





気付かぬ内に平穏は遠ざかり、気付かぬ内に嵐の中へと足を踏み入れていた。



第二章 親衛隊と歓迎会 完

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